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ruka126053のブログ

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第29章―罪の鼓動


 ぎぎぎ、ばきっ。
「すいません、壊れました」
「あっ、うん、古いからね」
本当に不安にさせる奴だな。
「お前は扱いが乱暴すぎる」
ルドルフは背後からヴォルフリートの手を取った。背が伸びたか。温かいな。
「ほら、こうして」
「ああ、なるほど」

廊下で様々な立場の人間が行きかう。
その中で、明るい日差しの中、取り巻きに囲まれた優しげなオッドアイの青年をみる。軽やかに優雅に、上品に爽やかにほほ笑み、両親や知り合いに囲まれて、笑っている。
そこにいたのは、自分のはずなのに。
「おい、ルドルフ」
「お兄様?」
風でダークブラウンの髪が揺れる。
ヨハンが舌打ちする。
「この世の春を満喫中ってか、忌々しい」
「まあ、ヨハンのお兄様、ゴットヴァルトは紳士ですのよ」
マリ―・ヴァレリーがヨハンにしがみつく。
「紳士は人を陥れないんだよ」


花が行きかう中、プリムラの花に触れながら、貴婦人と別れて、一人になる細身の男を追いかけた。
「貴族の子息が共のものも連れずに一人でいると危険だぞ、近ごろ表では物騒な事件が多いからな」
「これは、皇太子殿下・・・」
あわてて、敬礼をとる。
「畏まるな、私とお前の仲だろう」
かっかっと近づく。
「ですが・・・」
さぁぁと淡い金色の髪が揺らめく。
「それとも、子爵家の人間だから、もう口を利ける立場ではないという気か」
「人には守るべき立場があると思います、それに当家は宮殿入りが許されたばかりですので」
なんて、他人行儀な・・。
「それなら、いちいちびくびくした態度をやめろ、見ていてイライラする」
悪趣味な香水の匂い、移り香だろうか。
「―何か、殿下の御気に障ることをしたでしょうか」
腕を乱暴につかむ。

「お前はいつまでその猿芝居を続ける気だ、役者にでもなったつもりか?」

「お相手を御間違えなく、皇太子殿下、貴方が声をかけるべきは会場にいる有力者の皆様であられるはず」

「―ああ、部屋を借りていますよ」
ルードヴィッヒはまるで幼い子供のようなしぐさでビジネス関係の本を読みふけっている、美少女連れの美しい少年をみた。
「アルヴィンは」
「ああ、エルフリーデの裸を見たとかで上司に呼ばれていますね、困りますよね」
ストロベリーな色合いを見せる長い髪に均整のとれた身体に美しい顔立ち。気の強そうな瞳。
「ねえ、まだあのアルヴィンと付き合うつもりなの」


天井がむき出しになった工場の跡地で、ラインハルトは父の命令に背き、処罰対象の人間を殺したふりをして、助けた。信仰が目的の二ケの肖像のスポンサーとして。
ダリル達もそんな栄光の裏で生まれた不幸、本来なら国を守る軍人の遺児や難民だった。二ケの肖像の闇の部分で人生を狂わされたものたちだった。暗殺者の子供もいた。

「お前、気持ち悪いんだよ」
そう言って、見限った。
女性や多くの命を食い物にして、この上、行動の理由を言い訳にして。

誰ド、後で僕はこの時の自分を死ぬほど悔むことになる。

「殺してやる、いつか親父の仇を晴らす」
少年はローゼンバルツァーに仕えることになった時、そう言った。
「滅びた華族の子が・・・」

「ごめんなさい、ダリル」
「ごめんなさい」
「・・・いいよ、もう」
空はいつの間にか、ハレになった。

「もう、本当にダリルの馬鹿」
「うるせえ」
「さっさと行くぞ、アーディアディト」
「見合いの現場に踏み込むなんて、何考えているのよ」


「いいえ」
「お・・・私には貴方が主人であることが必要です」
「でも貴族の主人として僕は・・・」
「貴方は私を救ってくれた、兄弟も」




「オルク、オルク」
「悪いな、お二人さん」
「どうして・・・」



「殿下、本気で好きだったのに」
「忠告を受けなかったのはあなただ、アーデルハイト」

さぁぁぁ。
幕が引いて、意地悪な大人びた笑顔を浮かべるヴォルフリートにカイザーは違和感を覚え、顔をあげる。まるで仮面をかぶったような。
「フフ、いい姿だよ、薄汚い豚そのものだ、実に滑稽でシュールだ、君の薄っぺらい感性にぴったりだ」
「ようこそ、カイザー・クラウド。アンダーグラウンドの世界へ」

「何の用だ、アリス」


「貴方、好きだったのね、彼女のこと」
「彼女はおとぎ話を見ていただけだ」


「それならば、動きましょう、ジ―クヴァルト様」
「ああ」
「これから僕らの巻き返しだ」

「そうか、なら、攻撃を再開する」
「全て―」
「駆逐する」


再会してわかった。
あいつは、きっと擦り切れていったんだって。
「それでは、爆撃の準備を」
「ああ」
冷たい眼差しはリーダーのまなざしだ。戦場や争いとは無縁だって?
過去の私は何を見ていたんだろう。
「これで、アウグスティーンは表に出てこざるを得ない」
穏やかな顔の裏で、こいつがこんな厳しい一面を、誰かと血を流し合う世界になれていたなんて。わずかな慈悲も情もなく。
「今度こそ、討つ」

「何で、なんであんた達はあんな奴のためにそこまで」
「どうして・・・」
「私達にとって、あの方が全てなんです」
「あの方がいなければ、今の私達はなかった」



暗闇でゴットヴァルトはアーデルハイトがいる柵をはずした。
「ひっ」
美しい令嬢は震えている。アーデルハイトの頬に冷たい汗が流れる。柔らかなウェーブヘアもぱさついている。美しい少年だ。だが、知っている。
彼は本物の悪魔だということを、自分の組織を破壊したのだ、それに自分は実の兄であるこのけだものに何度となく刃を向けた。次が来たのだ。
「・・・公爵令嬢、助けに参りました」
静かな声だった。
「―僕は、・・・君の双子の兄のゴットヴァルト・クラウドです、君と同じテレ―ジアを母にベルンホルトを父に持つ」
今まで狂気じみた、厳しい表情しかしらない。
少年は手を差し出す。
「今までのことで僕の力はある程度、わかっているはず、あなたにもう誰かをしたがわせる力は生まれしか残っていない」
「・・・弱いところを狙って、殺しに来たのですね」

「だから、そんなふうに笑わないでほしい」
「えー」
「だって、おかしいんだもの」
「変なヴォルフリート」

「違う」
「違う」
アリスはうなだれる。
「違わないわ」
もう一人のアリスが椅子に座りながら軽やかに笑みを浮かべて言った。


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